ETCカードをご利用のみなさま、こんにちは。

高速道路の「休日1,000円」と「無料化実験」を覚えていらっしゃいますでしょうか?

「そういえば、昔あったなあ~」という方や「休日にいっぱい遠出したよ」という方、「あの時は渋滞でひどい目にあったよ」という方など色々な方がいらっしゃるかと思います。

今回は、高速道路の料金の歴史ということで、リーマンショックが起こった2008年9月自民党から民主党への政権交代が起こった2009年9月と東日本大震災が起こった2011年3月を含む2008年~2011年の高速道路の「料金割引」ならびに「無料化実験」についてご紹介したいと思います。

まずは、以下の図をご覧ください。

2008年~2011年の高速道路の「料金割引」ならびに「無料化実験」についてまとめられた図となります。大きく2つ、左側が「料金割引」、右側が「無料化実験」となっています。

高速道路のあり方検討有識者委員会の資料より

まず、「料金割引」についてですが、2008年、民営化時点で約37兆円となっていた有利子負債の中から、国が3兆円の債務を引き継がれました。それに伴い、軽くなった負担の余力を使い、料金割引をするということで、二段階に分けて「利便増進事業」が導入されました。

 1.深夜5割引などを10年間実施(2,500億円×10年間) – 2008年10月~
 2.休日1,000円上限割引の実施(2,500億円×2年間) – 2009年3月~

その後、2009年9月に民主党への政権交代があり、2011年2月に新たな料金割引の導入が決められました。

 1.休日1,000円上限の継続 – 2011年4月~
 2.平日2,000円上限の追加 – 2011年4月~

高速道路のあり方検討有識者委員会の資料より

しかしその後、新たな料金割引が決定して1ヶ月もたたない2011年3月に東日本大震災が発生した結果、休日1,000円上限は継続するが、平日2,000円上限は追加しないことに一旦変更され、その後、2011年5月に成立した第1次補正予算にて利便増進事業の財源となっていた2,500億円が復興資金に回されることになり、最終的には、休日1,000円上限制は廃止されることになりました。

次に、「無料化実験」ですが、2010年6月から2011年3月までの期間、首都高、阪神高を除く高速道路の約20%にあたる1,625kmの全車全日の料金を無料とする無料化実験がスタートしました。

高速道路のあり方検討有識者委員会の資料より
高速道路のあり方検討有識者委員会の資料より

そして、2011年4月からはさらに330kmを追加し、新しく夜間大型の1,500kmの割引を実施することが決定されます

しかし、2011年3月に東日本大震災が発生し、これまでの無料化実験は継続するが、新たな無料化実験は追加しないことに一旦変更され、その後、2011年5月に成立した第1次補正予算にて財源となっていた1,000億円が復興資金に回されることになり、最終的には、無料化実験は凍結されることになりました。

国土交通省のプレスリリースより
国土交通省のプレスリリースより

東日本大震災の発生により、料金割引ならびに無料実験は、大きく軌道修正せざるを得なくなり、民主党政府は、無料化社会実験や料金割引の評価、将来の料金制度のあり方について検討するための有識者委員会を設置することになります。

これが、2011年4月に設置された「高速道路のあり方検討有識者委員会」です。

有識者委員会の中では、休日1,000円導入前後の渋滞比較などがなされ、休日1,000円導入後、休日は毎週ゴールデンウイーク並みの渋滞が発生していたことがわかります。

高速道路のあり方検討有識者委員会の資料より

高速道路のあり方検討有識者委員会」は、2011年4月から15回に渡り議論を重ね、2011年12月9日に「今後の高速道路のあり方(中間とりまとめ)」として、国土交通大臣へ答申を行いました。詳細は以下をご覧ください。

今後の高速道路のあり方(中間とりまとめ) – 高速道路のあり方検討有識者委員会

「中間とりまとめ」では、「休日上限1,000円」は、景気対策としての効果が期待され導入されたものであったが、その結果としては、毎週ゴールデンウイーク並みの渋滞が発生するとともに、長距離利用の促進により他の公共交通機関への影響もあったと評価されました。

今後の高速道路のあり方(中間とりまとめ) より

また「無料化実験」は、地方部の端末区間において、大きく渋滞することなく、高速道路の利用が促進されるとともに並行する一般道路の渋滞が解消されるなど一定の効果が見られたと評価されました。

今後の高速道路のあり方(中間とりまとめ) より

最終的な料金施策の総括としては、

民営化の直前より、一般道路における渋滞解消や沿道環境の改善のための料金割引が社会実験として導入されたことは画期的な取り組みであった。さらにETCの普及を背景として、民営化を契機に、交通需要管理や有効活用などを目的として、それまでの硬直的な料金から通勤割引や深夜割引など多様で弾力的な料金施策に転換し、料金による交通誘導により政策課題に対応した点は評価できる。また、試みとしては休日上限1,000円や無料化社会実験などについても評価できる部分はある。

ただし、休日上限1,000円や無料化社会実験のようなインパクトの強い施策については、地域活性化などの面から一定の有効性も確認されたものの、当該施策の対象となった道路における激しい渋滞発生や他の交通機関への影響などの交通政策としての課題のほか、施策の継続に必要な予算の制約などの課題があり、持続可能性などの観点からも原点に立ち返った検討が必要である。

今後の高速道路のあり方(中間とりまとめ)

と報告されました。

平たく言えば、休日上限1,000円は激しい渋滞発生や他の交通機関へ影響などが問題であり、無料化は持続可能性がないと有識者委員会では判断されたということかと思います。

また、高速道路の料金などを調査・検討している公益財団法人高速道路調査会は、2018年に発表した「高速道路の料金制度に関する研究」にて「休日1,000円」を「高速道路を無料化した状態に近い運用」として、「社会全体として好ましくない状態になる」「高速道路が無料となることは、必ずしも私たちの生活にプラスになることばかりではない」と評価しています。

中間とりまとめ」により料金制度のあり方と今後の料金施策の方向性が打ち出されたことに伴い、3年後(2014年)に料金割引の財源がなくなるまでに、既存の料金割引を具体的にとりまとめて、2014年度以降の料金施策が決められることになりました

その後、この流れを受け、2023年現在も高速道路に関する政策を調査・審議している「国土幹線道路部会」が2012年7月13日に立ち上げられます。

そして、2014年度以降の料金施策が検討され、2013年6月25日に国土交通大臣へ「中間答申」を行い、2014年4月から実施された「全国の新たな料金体系の導入」へとつながります。

こちらの詳細については、以前記事にまとめましたので、以下を参考にしてください。

高速道路料金に関する議論や検討はどのように料金制度に反映されているのでしょうか?

今回は、リーマンショックが起こった2008年9月、自民党から民主党への政権交代が起こった2009年9月と東日本大震災が起こった2011年3月を含む2008年~2011年の高速道路の「料金割引」ならびに「無料化実験」についてご紹介しました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。